メジャーリーグエンジェルスの大谷選手が絶好調ですな。
スポーツニュースでは連日の報道。毎日のようにホームランを量産し、オールスターでも先発投手&一番バッターで出場。100年前の記録やStatcastなどの色々なデータで検証されてますが、名実ともに歴史に名を残す名選手になりそうですね。
この伝説の「生き証人」になれることは嬉しいですよね。毎日のようにニュース記事やスポーツニュースなどをチェックしてます。正直に言うとここまでの活躍はホントに期待してませんでした。マジ、本当に凄いです。
で、つい先日に、とあるWEBを見てて思ったのですが、大谷選手が高校卒業後の進路を日本ハムに入団を決めた資料が話題になってました。2012年のドラフト指名された直後に日本ハムファイターズの球団職員が大谷選手の入団を説得するために作成した資料で、当時もネットなどで大きく話題になっていたものです。
皆さんもご存知かと思いきや、実は知らない意外と人も多いとの事でここで共有します。この資料から大谷選手のプロ二刀流生活が始まったんですよね。この資料を初めて見る人はもちろんのこと、以前に見たことがある人も改めて見直してみることで、何か感じるものがあるかもしれません。
どんな資料なのか
大谷選手は高校卒業後に日本ハムファイターズに入団し、そこからメジャーリーグのエンゼルスに入団をしましたが、高校3年生のドラフト会議前はメジャーリーグ入りを希望しており、ドラフト指名されても日本のプロ野球には指名されてもファイターズには入団しないだろうと見られていました。
そんな中で、ドラフト指名後にファイターズ幹部が大谷選手に対して説得するための資料として使われたのがこちらの資料というわけです。
題名:大谷翔平君 夢への道しるべ ~日本スポーツにおける若年期海外進出の考察
日付:2012年11月10日
ページ数:全31ページ(別紙5ページ含む)
PowerPointで作成されたっぽい資料で、残念ながら日本ハム公式Webでの公開は終わっていますが、同じ内容の資料のPDF版がWebに公開されています。日本球界入りからメジャーリーグの挑戦に向けた伝説はここから始まったんです。
資料の中身
大きく4章だてで、日本人選手がメジャーリーグで成功をするために、世界と比較してデータを以て成功の道筋を説明する。その中では、日本のプロ野球で経験を積んでからメジャーリーグにチャレンジするのが最も成功率が高い、という流れで進みます。
資料の構成として4章立て。提案資料としては王道とも言える流れかもしれません。
(1)大谷選手の夢の確認
→まず相手のことを理解していることを示す
(2)日本野球と韓国野球、メジャー挑戦の実態
→日本人のメジャー選手一覧で実態を理解する
(3)日本スポーツにおける競技別海外進出傾向
→他競技との比較で、日本プロ野球が競技環境や育成にも優れている
(4)世界で戦うための日本人選手の手法
→世界に通用する日本スタイルをまず身につけることが大事
早速中身を見ていきましょう。
資料の中身
(1)大谷選手の夢の確認
まずはじめに大谷選手が成しとげたいことを確認しています。アメリカで先駆者として、トップで長く活躍したいんですよね?を確認します。
そして、その後にMLBで成功するために必要な要件を挙げています。成功するためには、競技レベルをはじめ、身体能力や言語、育成環境や競争環境など、ハードルがいっぱいあることを挙げています。
まぁ、野球の競技レベルや言語だけでなく、ほかにも考える必要はいっぱいあるんだぞ!ということを改めて現状認識してもらうわけですね。そんなのわかってる、という内容かもしれませんが、改めて資料で見せられると考えるかもしれませんね。
(2)日本野球と韓国野球、メジャー挑戦の実態
全体の中で一番唸らされたのは第二章ですね。正直に「やられた」と思いました。
まず実態をデータで確認します。
全47選手中、MLBで実績をあげたトッププレイヤーは9名
早期の渡米がトップレベル到達+長期活躍とは言えないことを明らかにして、次のページで韓国の例を引用し、日本での実力をつけることの方が大事と訴えるわけです。
私がここで凄いなと思ったのは、データで実態を把握してもらうこと。現実は意外と甘くないぞ、とデータで迫るわけです。そうなんですよね。ここで早期渡米を躊躇わせる効果はあると思います。早期渡米が長期的な成功に直結しないことも述べています。
また、日本だけではサンプルデータが不足している(という理由で)韓国のMLB挑戦についても記載しているところもなかなかです。
さらには、野球の実力だけでなく、競争社会のアメリカで生き抜くこと、さらには言語や食事、文化の違いなど、ほかの要素も多々ある現実を突きつけるわけです。
それをまとめページで定量化して見せます。独自の評価とはいえ、国内のプロを経験なしでMLBに挑戦して成功した人はたった5.6%という厳しい現実を思い知ってもらうわけです。
(3)日本スポーツにおける競技別海外進出の傾向
そして、さらなる客観性を持たせるために第3章ではほかのスポーツの海外進出を例に説明してます。この中では、早期に海外進出をすべきスポーツと、国内で実績を積むべきスポーツを色分けしてます。
その中で、野球は国内の育成環境が整っているため、必要性に乏しいことが記載されてます。正直に言って、この3章はあまり個人的にしっくりこない部分もありますが、ウーム。そんなものかもしれないな、とは思うかもしれませんね。
(4)世界で戦うための日本人選手の手法
この章では、個人を焦点にあてて、成功要件を挙げています。ここではサッカーを例に、身体能力に劣る日本人の特性を身に着ける必要性を説いてますね。
そして結論
うーん。高校生がこれを見たら、明確に反論できないかな、と思ってしまいます。これ、やりおるなぁ。
二刀流も踏まえた考察
ここまでの資料はとにかく素晴らしい内容と思います。この資料ではデータをもとに若者に考えてもらい、成功までの道のりをイメージし、選択してもらうこと。
当時は日本ハムファイターズの入団を拒否するとの見方が多かった中で、大谷選手が日本ハムへの入団を決めたのは、「データ」に基づいて冷静に考え、成功への道のりを考えてもらうことだったのでしょう。
しかし、この資料「だけ」では、もしかしたら大谷選手が日本ハムファイターズを選択するまでには至らなかったかもしれません。
2012年のドラフト指名では、多くの球団が大谷選手のドラフト指名を避ける中、日本ハムファイターズがドラフト第一位で大谷選手を指名しました。しかし指名された大谷選手は「評価していただいたのはありがたいが、アメリカでやりたい気持ちは変わりません」と言い切ってたんですよね。
では、何が決め手になったのか。実際のところはわかりません。が、(この資料中に明言されていませんが)日ハムへの入団の決め手になったのが二刀流の育成プランと言われています。
全4回にわたる入団交渉のうち、1回目の交渉には大谷選手は同席してません。栗山監督が3回目と4回目の交渉に参加したのですが、ここで二刀流での育成方針が栗山監督から示されたとのこと。
ファイターズへの入団決定後に大谷選手がこんなことをコメントされています。
「実を言えば『二刀流』ということをボク自身はまったく考えてはいなかったのですが、栗山監督に真剣な表情で『誰も歩いたことのない道を歩いてほしい』 と言われたことが最終的に日本ハムさんにお世話になろうと思った決断の決め手となりました。
このポイントは、高校卒業後にすぐにメジャーリーグという「みんなが描く夢」に挑戦することではなく、二刀流での成功という「前人未踏の夢」に向けてチャレンジしていくこと。この夢の実現に向けては、着実にステップアップできる方法がよかったのでしょうね。
大谷選手のチャレンジに向けては、着実にステップアップでき、かつ、前人未到の夢にチャレンジできる日本の球団への入団が最適だとの結論に至るわけで、この資料と二刀流のプランでの入団交渉がないと今の大谷選手の二刀流はあり得なかったわけです。
つまり、プロ入り後の二刀流は全てはここから始まった、ということになるわけです。そんな思いで見ると、この資料、とても感慨深くなるわけですよね。うーん。すばらしい。
これ、日ハムの交渉に当たった人、特にシナリオ描いた人からすると震えちゃいますよね。大谷選手の二刀流は俺が作り上げたって言いたくなっちゃうんじゃないかって。それだけ価値のある資料だと思うわけです。
最後に
2012年当時を思い起こすと、野球通の人やメジャーリーグに詳しい人ほど、大谷選手の二刀流には否定的だったように記憶しています。にわかファンの私も大成功は難しいと見ていました。誰がここまでの成功を予想していたでしょうか。
しかし、大谷選手や栗山監督、球団職員の方にとっては、将来大谷選手が成功するイメージもって、そこまでの道筋がしっかりと見えていたのかもしれませんね。
まぁ、大谷選手への説得資料をもとに振り返ってみましたが、ここまで活躍すると、やりすぎ。MAJORの作者も編集者からボツにされるレベルとおっしゃってました。
ともあれ、これをきっかけに、アメリカのベースボール人気と日本の野球人気が盛り返すといいですね。
そして、大谷選手の活躍を見て伝説に昇華していくことを目の当たりにしながら、この時代感をみんなと共有して祭を楽しみたいです。そのためには、くれぐれも怪我だけには気をつけていただきたいです。
そして願わくば大谷選手の長く更なる進化を見ていきたい!と思う今日この頃です。