流されず逆らわず

コンピュータ関連のお仕事をしております。不惑を超えても惑い続ける男です。二児の父。

shi3zさんの日記より

id:shi3z さんの特許はとればいいってもんじゃない。発明はすればいいってもんじゃないを読んだ。
http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20080524/1211630858



shi3zさんの日記の内容は、「ケータイ向けに面白い技術を開発している研究者が居る」と言われて会ってみたけど、研究者本人ではなく、エージェントのような仕事をしてる営業さんだった。んで、特許の売込みを受けたけど、話してみると特許性が無いようなもので激萎えして帰ってきましたよ。ってな内容。

ある製品が成功する。その成功をうらやんで他社が真似する。
その真似するときに特許があると「真似するな」と言える。これが特許の本質的な部分である。


うんうん。まさにそうだよなー。当たり前の話。けど、昔はこれを金のなる木のように勘違いしてた人々も沢山いたんだよね。今は知らんけど、私も昔を思い出したので書いてみる。かれこれ10年以上前のこと。


・・・


私は大学新卒でコンピュータ業界に就職した。時代はまだギリギリ20世紀。当時私はケータイ業界に対してのSIというものを提案していた。ケータイもほとんどが音声トラフィックの時代で、自分が担当させてもらったケータイ業界にも、まだまだ欧米に追いつけ追い越せという勢いで日本発のサービスを始めようぜって雰囲気があり、ケータイ業界には活気が漲っていた。


また、今と比べると当時はケータイ会社も間口が広く、業者側からの海外キャリアへの訪問や海外パッケージの紹介に耳を傾けてくれたり、変な新規サービスの提案に対していろいろと話を聞いてくれていた。どのキャリアも勢いづいていた時代。携帯業界は成長期にあり、また新規加入者を獲得することに血眼になっていた。


だから、キャリア側が業者側に色々と相談したり、逆に業者側からキャリア側へのいろいろな(変な)提案を積極的に受け入れくれていた。いま振り返ってみると古き良き時代だった。そんなあるときの出来事。


当時のお客様に新規サービスの提案をして、よい雰囲気で話がすすんでいた。ところが、ある訪問時に態度がいきなり豹変していた。あまりの豹変ぶりに思わず質問してみたところ、私のお客様が
「この提案は、特許侵害の可能性はないんでしょうか」
ってなことをおっしゃるわけです。


詳しく話を聞いてみると、お客さんが特許侵害の可能性を心配しているということがわかった。
懸念してた内容は、携帯端末のインタフェースに関する内容で、キャリアが新規サービスを提供する際に他社が保有する特許に抵触してるかもしれない・・・ってこと。


あまりに唐突なことだったので、なぜそんなことを聞いてくるのか?と聞いてみると、そのお客様が曰く、ある日突然、携帯に関する特許を保有すると主張する会社から連絡があり、
「貴社はウチの会社が持ってる特許を侵害してませんよね」
ってなことを半ば脅迫まがいで詰め寄られ、訴えられえたくなければ金を払えと脅されたみたいです。



なんだがすごくアヤシイ話。社内にその話を持ち帰って法務やら知財に相談し、最終的には弁理士事務所に相談したけど、お客様からは
「サービスを実現後に訴えられ場合のリスクを貴社で負えるんだったら、提案してください」
ということになってしまったので、泣く泣くその提案をあきらめました。



そして数ヶ月後、いろいろと気になったので顧客のお客様に脅しをかけてきた会社のことを後日談を聞いてみました。脅しをかけてきた会社はほぼ実体が無く、特許を保有する会社の代行で、いろいろな会社から特許侵害をタテにお金を要求する怪しい会社だったことがわかった。
その会社の主な収益源は、テクノロジー関係の特許を持っているところに声をかけ、特許料として支払われる金額の一部を成功報酬としてせしめることを目的に活動をしていたらしい。


簡単に言うと、めぼしい特許を調べて特許に抵触しそうな技術を提供してる会社に接触し、
「うちの技術の特許侵害してますよ。目をつぶってあげますから、金ください」
ってな感じで片っ端から売りこみをかけ、ビビった会社からお金をせしめることを生業にしてたらしい。


んで、私のお客様も「ウチの特許を侵害してますから金払ってください」ってな感じで脅されていたわけだ。まぁ、私のお客様は「法務部通して話してください」って突き返して、その後の接触を強制的に絶っていたら音沙汰がなくなったという。
結局、まともに戦ったら金も時間もかかり面倒だから放置してほかのところをあたったのだろう。その後、他のキャリアでも似たような話が出たというのを小耳にはさんだことがあるので、特許料をせしめるビジネスというのは(ビジネスになるかどうかは別として)それほど珍しい話では無かったのだろう。


ちょっと脱線するが、そういえば、10年ぐらい前はビジネスモデル特許というのが流行ったなぁ。
http://www.icr.co.jp/newsletter/trend/series/1999/s99U0101.html
ビジネスモデル特許とは、ビジネスの方法をITを利用して実現する装置・方法の発明に対して与えられる特許。
すでにビジネスとして成り立っている仕組みでも、別の人が出願した同じ仕組みの特許が
認められちゃったら、特許の保有者にお金を払わなきゃいけないさあ大変ってな感じで、業界がけっこうな騒ぎだった記憶があります。


そして、当時大流行したビットバレー界隈では、新しいビジネスモデルを考えなきゃ!とか、「うちの会社はビジネスモデルで勝負するとか、単なるアイディアなのに「これはビジネスモデルになりますか?」とか聞いてる人がいたり、猫も杓子もビジネスモデルっていう時期があった。


それも今となってはいい思い出。もう10年前の話か。しかし、10年経ってみると、ビジネスモデル特許なんて単語は全然話題にならなくなった。あまりにも一般化したたため、話題にならなくなったのか、それとも下火になったのかはわからない。けど、少なくとも耳にすることも無くなった現状を考えると、廃れたと考えるのが自然なのだろう。個人的な感想としては、あるべき姿に時間をかけて戻ったのかなーとも思う。


そんなことを考えているうちに、10年という時間を思い起こして少々さびしい気持ちになった。業界に怪しい人々がうごめいていたのは、山師が「儲かる!!」という金脈を掘り当てるために精力的に活動をしていたからであって、いまはそういう人たちを目にすることがなくなってしまったのは、この業界が安定成長期にはいり、怪しい人々が幅を利かせられなくなってしまったからなのだろうか。
幸か不幸か。いや、健全になったとおもうべきなんだろうなぁきっと。